Visional Designer Blog

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「“らしさ”をカタチにして永く愛されるデザインをつくる」アイデンティティデザイナーわりえもんが大切にしていることとは?

ビズリーチのコミュニケーションデザイン室では、「明日から活用できる引き出し」をテーマに、デザイン業界の第一線で活躍されている様々な方を講師にお招きし、業務やキャリア開発に生かす勉強会をはじめました。今回は、その内容をお伝えします。

今回の勉強会は、フリーランスのアートディレクター・アイデンティティデザイナーとして、CI・BIから、プロダクトに至るまでのトータルデザインを手がける「わりえもん」こと、割石裕太さんをお招きしました。

講師紹介

わりえもん / 割石 裕太 / YUTA WARIISHI

1989年生まれ。
面白法人カヤック、株式会社Fablic (現 楽天株式会社 ラクマ事業部) を経て、2018年4月より “OH” として独立。スタートアップを中心に、アイデンティティデザインからプロダクトデザインに至るまでのトータルデザインを手がける。
2019年4月には、ブランドの成長に寄り添うクリエイターのリンク型組織 “Unthem” を主催。
主な仕事に、『Voicy』『Genesia Ventures』『Cansell』『RICHKA』『SAKE100』『百光 -byakko-』『ログミー』など。

「らしさ」を体現するデザイン

はじめまして、「わりえもん」こと、割石です。本日はよろしくお願いします。

ぼくは普段、CIやBIといったアイデンティティデザインのお手伝いをさせていただいているのですが、主なアウトプットとなるロゴデザインにおいては、デザインコンセプトをたて、そのブランド「らしさ」を体現するデザインをすることを心がけています。

ロゴはただ綺麗でかっこいいものであればいいものではなく、そのブランド自体を表す顔であるべきだと考えているからです。

今日は、ぼくがデザインする際に意識していることを、次のようなテーマでお話しさせていただきます。

  • 「らしさ」を引き出す
  • 「らしさ」を言葉にする
  • 「らしさ」をカタチにする

「らしさ」を引き出す

ロゴは「信念の象徴」

ロゴとは、ビジョン・ミッションや思いを表す「信念の象徴」であると、ぼくは思っています。
社内にとっては目的を共有する組織の一員であるという社員ひとりひとりの帰属意識を高め、社外にとっては目的や思いに共感してもらうためのコミュニケーションツールとなります。
そのため、ロゴをつくる前に必ずやっているのが、その企業のビジョン・ミッション・コアバリューの整理・策定です。

これには目的が2つあります。

1つ目は、その企業が信じる未来や存在意義がそこに詰まっており、ロゴをつくるにあたって何よりも重要な素材となるからです。
ここがクリアーになっていないと、掲げているロゴと言葉にリンクがなく、その企業の主張が首尾一貫したものではなくなってしまいます。納得感の薄いデザインになり、ビジュアル的なミスマッチの可能性も高くなります。

2つ目は、クライアントのみなさん自身に、自分たちの存在意義を語れるようになっていただくためです。
事業に関わるみなさんが自分たちの目指す世界や存在意義を理解することにより、事業においてもブレのない決定が行われますし、語れるようになれば、社内では組織文化が醸成され、社外においてもブレのない発信ができるようになります。

ビジョン・ミッション・コアバリューを整理・策定するのは、それ自体が目的なのではなく、あくまで表面(ロゴ・ビジュアル)と内面に一本筋が通ったブランドにするために行なっています。

一例として、『Apricot Ventures』をご紹介します。Apricot Venturesは大企業から新しい挑戦をする起業家を支えるVC(ベンチャーキャピタル)で、立ち上げのタイミングでCI作成の依頼をいただき、最初にミッション・コアバリューを策定しました。

挑戦を支えるVC『Apricot Ventures』のミッション・コアバリュー策定
挑戦を支えるVC『Apricot Ventures』のミッション・コアバリュー策定

目指す世界の再認識

立ち上げのタイミングで相談をいただいたクライアントの場合は、ビジョン・ミッションの策定からお手伝いすることもありますし、もともと掲げているものがある場合は、お話しを伺いながら微調整や整理をし直します。

新しくつくる場合は、ぼく自身が理解をするためにも、次のような質問をします。
基本的にクライアントのみなさんと話をしながら、クライアント自身から出てくる言葉を元にしてつくります。

  • この事業の端的な説明
  • この事業をはじめたきっかけ
  • 認識している競合
  • 競合がいる中、同じ領域ではじめた理由
  • 競合との違い

競合について質問するのは、「自分たちがこの事業をやる理由」についてクライアント自身に説明していただく中で、競合を意識することにより「自分たちが考えている強み」がより明確になるからです。むしろ、ここがないと存在理由がかなり薄いと考えています。

もともと掲げているものがある場合も「浸透していない」など明確な課題があったり、お話を伺ってよりよくできる部分がありそうだと思った場合は、改めて整理し直します。

例えば、質問をした時に出てきた答えとビジョン・ミッションの言葉に齟齬があったり、言葉が伝わりにくいものになっていたり、行動指針とコアバリューが一緒くたになっているなど、カルチャーとして浸透するために、より改善できそうな点がある場合です。

あくまでも、ビジョンやコアバリューなどは、クライアントのみなさんの中に存在するものです。他者が空想の中で考えた言葉で上書きしても、それを掲げる中のひとがそんなことを思っていなければ意味がありません。

特にコアバリューは、クライアントのみなさん自身を分解した際に外せない重要な要素なので、本人以上に知っているひとなど存在しないですよね。

冒頭でもお伝えしましたが、ビジョン・ミッションを新しくすることがゴールではなく、大事なのは、「自分たちが自分たちの言葉で語れるようになること」です。

ディスカッションする中で、やっぱり元のものに立ち返るのが正となればそれで良いと思うんです。そういう場合でも、言葉の響きを整えたり、言い回しを揃えたりなどして、より覚えやすく、リズムのそろったものにブラッシュアップします。

エンターテイメントで課題解決をする『Whomor』のコアバリュー策定
エンターテイメントで課題解決をする『Whomor』のコアバリュー策定

「らしさ」を言葉にする

思いを伝えるコンセプト

これまで、ミッション、ビジョンの整理のお話をさせていただきました。基本的にはこれで、その会社を定義する要素が揃った状態になります。ここからがやっと、ロゴを作る段階になるのですが、ロゴを作り始める前にもう1つ、必ず行なっていることがあります。それはデザインコンセプトづくりです。

ここで考えるコンセプトは、表に出ることを前提としたものではないのですが、ロゴデザインにおいて、ぼくが欠かせないと思う理由が3つあります。

1つ目は、ロゴの提案を行う際に、なぜこのカタチになったのかを説明するためです。
先にデザインを思いつく場合もあるのですが、その場合はデザインとビジョンを繋ぐブリッジの役割を担ってくれます。

2つ目は、クライアントからもユーザーからも、より永く愛されるものにするためです。
会社の顔であり、「信念の象徴」であるロゴは、関わるひとたちにとってよい見た目であることは当然で、その上でこのロゴである理由・物語があるかどうかで、デザインに対する納得感が増したり、深い愛着をもつことができるようになります。見た目が良いデザインのひとつ上をいくために、必要な存在だと考えています。

3つ目は、見た目が変わることがあっても思いは生き続けることができるからです。
ビジュアルの耐久年数は外部要因によって変わります。デザインの時流が変われば、変更が必要になったり、ブランド自体の立ち位置が変われば調整が必要にもなってきます。

デザイン自体が変わる可能性はあれど、思いの部分は変わってなければ生き続けます。むしろ、それをコアとして生まれ変わることもできる。永く愛されるものにするために、変わりにくい部分にしっかりコミットする必要があると考え、それをコンセプトというカタチで表現しています。

コンセプトを考えるときに使うフレームワークは特になく、ただひたすら考える感じなのですが、気をつけているのは、競合のコンセプトやロゴをしっかり調べるということです。ユニークである必要があるので、同じ言葉を使っていないか、似たような発想・アウトプットではないか、周辺環境を把握することで、自らの立ち位置をより明確にします。

声でひとを届けるボイスメディア『Voicy』のデザインコンセプト
声でひとを届けるボイスメディア『Voicy』のデザインコンセプト
動画広告生成プラットフォーム『RICHKA』のデザインコンセプト
動画広告生成プラットフォーム『RICHKA』のデザインコンセプト

コンセプトを最大化するプレゼンテーション

考えたコンセプトは、デザイン提案時のプレゼンテーションでぼく自身の言葉で伝えるようにしています。

プレゼンテーションでは、コンセプト・ロゴの説明だけではなく、改めてこれまで整理したビジョン・ミッション、そもそも「変える必要があるのか」ということも含めて、スライドを用意しています。

ビジョン・ミッションと同様に、ロゴも変えること自体がゴールではなく、変える理由があるはずです。もしこの変える理由を改めて考え直した場合に、理由がないのであれば「ロゴを変えない」という判断はもちろんあると思っています。大事なのは、「ブランドの信念を象徴するものになっているか」ということです。

ですので、ぼくのプレゼン資料は、画像よりも文章の比重の方が圧倒的に多くなっています。

大前提として、世の中の99%の方々は説明を見ずにロゴに触れます。ですが、このロゴを掲げるひとたちは、より深く理解し、納得し、永く愛してもらいたいですし、「語り部」になっていただきたいので、思いを漏れなく伝えるために資料をつくり、丁寧にプレゼンテーションするようにしています。

アジアを対象に投資をする『Genesia Ventures』 のプレゼンテーション資料
アジアを対象に投資をする『Genesia Ventures』 のプレゼンテーション資料

「らしさ」をカタチにする

数よりも「深さ」を追求

次に、そのコンセプトをどう視覚化するのかというお話です。
デザイン自体は、事業の内容や名前のイメージからすでにある程度思いついていたり、ビジョン・ミッションを整理する過程で見えてくる場合などあります。

ですが、先ほどお話していたコンセプトとセットで提案しているので、1つ1つを考えるのに非常に時間がかかります。

ですので、ぼくはデザインにおいては数を出すことよりも、思考から表現まで一気通貫しているものにできているか、愛着がもてる納得感あるストーリーが描けているかといった、1つ1つの「深さ」を重視しています。

世の中には数を多く出すことが得意な方もいらっしゃると思うのですが、ぼくはそもそも手を動かすのが早いタイプではありません。ですから、そもそも数を出すことに主眼を置くのであれば、ぼくが作ることは最適解ではない場合もあると思っています。

ぼくの場合は、永く愛される意味のあるものをつくることを目指しているのもあり、無理に数をつくる時間があれば、コンセプトづくりに時間をかけたり、デザイン案1個に対しての手厚いフォローに時間をかけることで、1つ1つの案の深さを追求するようにしています。

また、これもデザイナーによると思うのですが、ぼくの場合はデザインの途中経過は見せずに、プレゼンテーションの場で初めて見ていただくようにしています。背景やコンセプトからデザインまで、一連のストーリーとして見ていただくことで、納得感のあるデザインになっているかを判断していただきたいと思っているからです。

友人の言葉を借りると、途中経過を見てもらいながら少しずつブラッシュアップしていく「文通タイプ」と、1通に想いを込めて渡す「ラブレター」タイプがいるとしたら、ぼくは後者なのかなと。

アクセントはひとつだけ

ロゴデザインをするときに意識していることは、アクセントを絞り、できるならひとつにすることです。

1つは特徴を捉えやすく、思い出しやすくするような、記憶のフックをつくるためです。
例えば、服装でも、全身総柄よりも、ひとつだけアクセントになるものを取り入れることで、よりそのアイテムの良さが際立ったり、記憶しやすいのかなと思います。「この間のドットのシャツ可愛かったよね」みたいに。これが全体に渡ってアクセントだらけになると1つ1つは埋没してしまい、個々の良さが引き立たず全体の輪郭がぼやけてしまうと思っています。

もう1つは、そのワンポイントのアクセントが何を意味しているのか、考えるきっかけにもなるとも考えています。その答えとしてコンセプトが活きてきます。見た人とブランド側の答え合わせによって、よりファンになってもらえればいいなと思ってデザインをしています。
高価格帯日本酒ブランド『SAKE100』のロゴデザインにおいては、スタイリッシュな印象を与え、“SAKE” の綴りをもっとも美しく見せられるように、横幅が狭く設計されているコンデンスドの書体をベースに微調整をしています。そこに記憶のフックとして A の中に酒瓶のシルエットを加えました。

高価格帯日本酒ブランド『SAKE100』 のBIデザイン
高価格帯日本酒ブランド『SAKE100』 のBIデザイン

つくりかえることはゴールじゃない

ぼくがロゴデザインをする際は、全く新しいものを作る場合も多いのですが、もともとあるものを活かして作り直す場合もあります。

その例として、 『Genesia Ventures』があります。

ビジョンなどの再整理や、会社についての想いなどをクライアントに伺ってきた中で、もともとのロゴのシンボルが最適解だと感じました。

Genesia Venturesはアジアを中心に投資をするVCなのですが、ロゴを作るにあたってビションを新しく言語化し「すべての人に豊かさと機会をもたらす社会を実現する」というビジョンを掲げました。もともとの全ての頂点までの距離が等しい正二十面体のシンボルは、このビジョンを体現するには最適解だと改めて感じ、「Be fair to all / 全てのひとに平等・公正であれ」というコンセプトを添えてブラッシュアップを行いました。

正二十面体を生かしリデザインした『Genesia Ventures』 のCIデザイン
正二十面体を生かしリデザインした『Genesia Ventures』 のCIデザイン

もう1つ、もともとのシンボルを活かした例として、『ログミー』をご紹介します。

『ログミー』は、キャラクターとしてすでにサービスの顔になっているロゴがあり、ユーザーや社内の方々の愛着が強く、多くのひとの認知をすでに得ていました。その場合は、それ以上にないオリジナリティをもつ資産であると考え、もともとあったシンボルを活かして、ブラッシュアップを行いました。

似ているデザインは、世の中を隈なく探せばほぼ必ず見つかる時代です。ただその中においても、広く認知されているものは絶対的にオリジナリティがありますし、すでに形成されている認知を捨てることなく、引き継ぐことが正しい場合も多くあるんじゃないかなと思っています。

イベント書き起こしメディア『ログミー』 のCIデザイン
イベント書き起こしメディア『ログミー』 のCIデザイン

CIは、つくりかえることがゴールなのではなく、ブランドの「らしさ」を体現する言葉・デザインを行うことがゴールだと考えています。

だからこそ、1つ1つのプロセス・1文字・1つのパーツに至るまで、デザイナーとして細部にこだわりつつも、客観的にそのデザインをみる方々の目線も失うことなく、最適解を探り続ける必要があると考えデザインに取り組んでいます。

まとめ

最終的なロゴデザインに至るまでの、「らしさ」を言語化し、思いを込め、カタチにするプロセスをお話させていただきました。

ロゴは多くの方が接触するコミュニケーションツールだと思うので、つくるのであれば、永く愛されつづける愛着をもってもらえるものであってほしいなと思っています。

そのためは、どうありたいのか、存在意義は何で、どういう価値を誰に届けたいのか、それをまずは明確にすることが大切だなと思っています。

今日お話しした内容が、少しでも皆さんのお役に立てば嬉しいです。

ビズリーチへメッセージ

今日はありがとうございました。

今、みなさんがビズリーチにいることは、恵まれてることだと思います。
純粋に注目もされていて、ある程度の認知も評価もされている、さらにちゃんと使われているプロダクトがあるという今のタイミングで関われるのは羨ましいです。
ビズリーチというプロダクトや会社は、きっとこれからも続いて、長く愛され使われるものだと思いますし、そこで積み重ねる時間はすごく有意義だなと思っています。

外からみても、ビズリーチは真摯にプロダクトやデザインに向き合っている会社なんだなってことは伝わりますし、そんな環境がちゃんと整っているのは素敵だなって思います。

おわりに

今回は、わりえもんさんに依頼者との会話を大切にしながら、一緒にアイデンティティを作っていったご自身の作品についてお話いただきました。

ヒアリングの際の質問の仕方や、コンセプトをより意識したアプローチなど、伺った内容を業務に生かしているメンバーもいて、それぞれに学びや気付きがあった勉強会となりました。

これからも定期的に勉強会の内容をお届けしてまいりますので、お楽しみに!