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プロダクトデザインからプロダクトを届けるデザインへ —— 「B×D meetup vol.3 デザインでつくるプロダクトのストーリー」イベントレポート

ビズリーチデザインでは、「事業を知り、デザインを考える」をコンセプトに、デザインのチカラで事業にイノベーションを起こし続けている先駆者をお招きし、お話を伺うイベント「Business × Design Meetup」(以下、B×D meetup)を定期的に開催しています。今回は9月13日に開催した第3回 B×D meetupの様子をレポートします。

第3回 B×D meetupは「デザイン×家電」をテーマとして開催しました。スピーカーには、新たな家電シリーズ「STAN.」を発表した象印マホービン株式会社よりデザイン室長の堀本光則さん。さらに「STAN.」シリーズを共同で開発されたクリエイティブユニットTENTよりプロダクトデザイナーの青木亮作さん、治田将之さんをお迎えしました。

「歴史ある家庭用品メーカーと、クリエイティブユニットのコラボレーションがどのように行われたか」「広がりつつあるプロダクトデザイナーのデザイン領域」などをお話いただきました。

スピーカー紹介(敬称略)

堀本光則(象印マホービン株式会社/デザイン室長)

1994年、象印マホービン株式会社に入社。デザイン室で主にプロダクトデザインを担当し、現在に至る。

青木亮作(TENT/プロダクトデザイナー・ディレクター/共同代表)

治田将之(TENT/プロダクトデザイナー・ディレクター/共同代表)

TENTは、プロダクトデザイン事務所、生活雑貨メーカー勤務を経てフリーランスとして活動していた治田将之と、OLYMPUSとSONYを経て独立した青木亮作が2011年に結成したプロダクトデザインユニット。

デザイナーおよびクリエイティブディレクターとして象印「STAN.」シリーズのほか、フライパンジュウ、NuAnsやDRAW A LINEなどを担当。iFデザイン賞金賞をはじめ、国内外の賞を多数受賞するほか、メーカーとして自社製品の製造販売も行う。

TENT:https://tent1000.com/

「STAN.」シリーズについて

「STAN.」シリーズは、象印マホービン株式会社が、現代の暮らしに合わせて新たに生み出した家電シリーズで、IH炊飯ジャーなどの4製品からなります。メインターゲットを30代の共働き・子育て世代とし、空間になじむ佇まいのデザインを取り入れています。

この「STAN.」シリーズのデザイン及びクリエィティブディレクションは、象印マホービンとTENTのコラボレーションによって行われました。

STAN.シリーズ商品ページ:http://www.zojirushi.co.jp/syohin/stan/

「STAN.」開発のプロセス

まずは「STAN.」開発の背景から、両者の出会いとコラボレーションについて、スピーカーのみなさまよりお話いただきました。

次の世代をターゲットにした新しいデザイン家電を

象印 堀本さん:
「STAN.」シリーズ開発の背景を2つお話しします。1つは商品の流通、競合他社さんの変化。もう1つは弊社がちょうど創業100周年を迎えたことがありました。

2015年頃から蔦屋家電さんに代表されるような、今までの家電量販店とは異なったタイプのお店が出てきました。そういったお店では、それまでの競合メーカーとは違うメーカーの商品が置かれ、かつ、商品のデザイン性が高く評価されており、この時期から家電市場の変化が始まりました。

また、2018年に弊社が創業100周年を迎え、次の101年目に新しい姿を見せられるような商品ができないかと提言があり、それらが新たな製品開発のきっかけになりました。

象印マホービン 堀本さん

新製品のターゲット層は、若い20代〜30代の子育て世代としました。弊社の商品は年齢の高い方には認知度が高いのですが、次の時代の中核となるような若い世代の方には認知度が低い傾向にあったためです。

ターゲット層に近いスタッフが集まり企画開発の検討を始めましたが、なかなか方針が決まらず時間ばかりが過ぎていました。ちょうどそのタイミングで中途入社したデザイナーが、ターゲット層に当てはまる子育て真っ最中の30代だったので、入社初日にプロジェクトのことを話し「いいデザイン事務所を知らんかな」と聞きました。そこでTENTさんの名前が出て、偶然にもそのデザイナーの以前の職場が近所だったり、作品をWebなどでも拝見して、「これは面白いな」と直感し、すぐにTENTさんに連絡をとりました。

プロダクトデザインの領域を飛び越えたコラボレーション

象印 堀本さん:
それからTENTさんとの共同開発が始まりました。
TENTさんからは最初に「道具らしさ」をキーワードにいくつかスタイルを提案していただきました。我々の既成概念を取り払ったような提案で、刺激をうけたことを覚えています。

(左から)TENT青木さん、TENT治田さん、象印マホービン堀本さん

TENT 青木さん:
僕たちは、おしゃれなもの、かっこいいものを考える前に、最初にゴールを明確にしてからクライアントに提案するようにしています。

今回の場合は、いきなり若い子育て世代が好みそうな本体のデザインから考えず、そういった世代のキッチンやインテリア、彼らの暮らしをイメージし、その暮らしに合うような製品をゴールとしました。既存の家電製品のデザインはその暮らしと合わないと考え、そのズレを補正していくようなスタイルを複数提案しました。

象印 堀本さん:
提案と検討を重ねまして、新製品は「うつわ」をテーマにしたシリーズに決めました。当社は魔法瓶という器物から始まった会社なので、原点に立ち返る意味も込めています。最終的に販売する製品を4つに絞り、設計が始まりました。

今回、TENTさんとご一緒させていただいて、1番テンションが上がったのは、担当の枠を超えてネーミングやレシピブックなど、アートディレクション全般をTENTさんと考えられたことです。

TENT 青木さん:
実は違うネーミングが社内でほぼ決定していたみたいで、そのロゴデザインを依頼いただいた経緯もあり「ロゴデザインもやります。でも、ちょっと違うネーミングも提案させてください」と無理を言って提案をお願いしました。本来の納品物にはなかったコンセプトムービーを作って、みなさんにコンセプトをご理解いただいたおかげで、ネーミングの変更ができ、TENTがコンセプトを検討するプロセスまで入ることができました。

象印 堀本さん:
「STAN.」のネーミングには「あなたの暮らしにスタンバイ。スタンダードを作り続ける。それが象印のスタンスです」というメッセージを込めています。

こういうネーミングや、カタログ、リーフレットのイメージもTENTさんからご提案いただきました。絵本のような感覚で読んでいただけるレシピブックもその1つです。

TENT 青木さん:
これまでの家電製品に同梱されていたレシピブックは、単に食べ物のレシピが載っているだけの同梱物のような位置付けでした。しかし、暮らしの中で料理を作ることは、例えばパーティーの準備のように「STAN.」のネーミングに由来する「スタンバイ」の要素があるので、レシピブックも何かをスタンバイするための本とし、イラストやトーンをプロダクトのイメージと統一しています。

象印 堀本さん:
他にもTENTさんにはアドバイザーの形で、パッケージ、Webサイト、販促物、最終的にはポップアップショップにまで関わっていただきました。製品のデザインだけでなく「STAN.」が世の中に届くまでをデザインできたところが、通常の製品開発の流れと違い、いろんなセクションをまたぎながら弊社として新しい挑戦ができたと感じています。

TENTさんがデザインで心がけている3つのこと

ここでTENTさんより自社の商品開発や他社とのコラボレーションにあたって考えていることを「デザインについて考える前に僕たちが心がけている3つのこと」というタイトルで紹介いただきました。

1.文脈を置き換える

TENT 青木さん:
まず1つ目はプロダクトをデザインするときには「文脈を置き換えること」を考えています。
「STAN.」の場合は調理家電として機能や見た目が優れているかどうかは一旦脇に置いて、調理家電から「うつわ」に文脈を置き換え、うつわとしてどうあるべきか、良いうつわを作ることを意識してデザインしました。

いい調理家電を作ろうとすると、調理家電の枠から抜け出したアイデアを考えづらいので、異なる文脈にデザインする対象を置いて、その文脈から眺めたときに違和感があれば、違和感がなくなることを心に据えてデザインをしています。

2.コミュニケーションをプロダクトから織り込む

TENT 治田さん:
2つ目は「コミュニケーションをプロダクトから織り込む」です。
今回の「STAN.」では、キッチンの景色、風景に馴染むことを考え「うつわ」案のデザインが採用されています。

うつわのコンセプトに基づき、小さな子供も含めて家族みんなで親しみが持てるうつわの象徴として、従来の象印さんのロゴを「STAN.」では特別にゾウさんのマークのみにさせていただきました。また、操作スイッチ類は上面に集約することで、離れて見たときには目に入らず周りの道具に馴染み、近づくとしっかり操作しやすいように配慮しています。

同じように「STAN.」の広告や販促物などのコミュニケーションも、お皿や鍋の横にあって違和感がないもの、キッチンの景色に馴染むことが伝わるよう配慮しました。

TENT 青木さん:
そうした工夫の結果、Webで「STAN.」が発表された時には、SNS上で話題にしてもらえました。これは僕たちの解釈ですが、今は説明なしでプロダクトそのものに込められた意図を読み解いて伝えてくれる人がいるいい時代だなぁと感じています。

ですので、プロダクトの美醜やかっこ良い悪いではなく、そのプロダクト自体がコミュニケーションとして機能するかどうかでデザインを常に高めています。

3.プレゼントを贈る気持ちで

TENT 青木さん:
最後は「プレゼントを贈る気持ち」でデザインを考えます。
例えば、製品を友達に渡すプレゼントだと考えたときに、プレゼントを受け取ったタイミングで「わーっ」と喜んだり、何かを感じたりして欲しいんですね。「STAN.」でも、レシピブックであれ、パッケージであれ、1つ1つはプレゼント用の演出と思い、いつ、どこで、どうやって「STAN.」をプレゼントすれば、贈った相手が喜ぶかを考えました。

プレゼントを贈って喜んでもらうためには、プロダクトそのもの以外の要素も考える必要があります。なので、メンバーの肩書きは関係ないかなと思います。プロダクトデザイナーという職能に関係なく、製品のあらゆることに口を出したくなるし、手間を惜しまず手を動かすスタンスでやっています。

パネルディスカッション

みなさまのプレゼンテーションに続き、登壇いただいた堀本さん、青木さん、治田さんに、ビズリーチ CDOの田中が質問させていただく形でパネルディスカッションを行いました。

プロダクトデザイナーはどのように事業に貢献できるか

田中: 
まずはプロダクトデザイナーがどのように事業に貢献できるかについて、それぞれお聞かせいただけますでしょうか。

TENT 青木さん:
先ほどプロダクトにコミュニケーションを織り込むと話しましたが、そうすることで広告に予算をかけなくても、プロダクトのもつ世界観を伝えることができます。家電事業に限らずですが、プロダクトデザインがコミュニケーションも担う形で事業に貢献できるのかなと思いますね。

広告の予算がない、今すぐに圧倒的な新技術がない、ないないの環境の中で利用者にプロダクトを届けられるのが、デザインにできることの1つかなと思っています。知恵を絞り、工夫に工夫を重ねて何とかする職能を言い換えたのが、デザインなのかなと。

田中:
面白いですね、工夫を職能にしたのがデザインだと。堀本さんはいかがでしょう。

象印 堀本さん: 
僕自身、今回の「STAN.」シリーズのプロジェクトを通じて痛感したのは、プロダクトを世の中に出すためには製品の形だけでなく、箱やカタログ、お客様への届け方のデザインも大切だということです。我々もプロダクトデザインの枠を越えて、お客様と製品の接点も視野に入れたデザインが、事業貢献において非常に重要な時代なのかなという気がしています。

ストーリー作りにおいて、デザイナーが果たすべき役割

田中:
「STAN.」シリーズには、プロダクトのコンセプトや魅力を伝えるストーリーが明確に込められているように感じました。デザイナーとしてどういう動きが、良いストーリーを作ることにつながるのでしょうか。

TENT 青木さん:
実はストーリーをわざわざ作った事は1度もありません。

ものづくりはストーリーがとても生まれやすい土壌だと思います。ストーリーを語って欲しいと言われたときに、プロダクトデザイナーが得なのは、プロダクトのターゲットやゴールを決める企画段階から、全ての制作プロセスに関われることです。プロセスの中では様々な事件や出来事があります。こちらが意図しなくても無限にストーリーが生まれていくので、発売前にはどのストーリーを伝えようかと悩むくらいです。

TENT 治田さん:
今回はプロダクトのターゲットが明確で、自分と重なる部分も多かったので、ターゲットの考えに共感できたところが良かったと思いますね。ストーリーというものをわざわざ思い描く必要もなく、ごく自然にありのまま伝えることができたと思います。

家電事業におけるデザイナーの未来

田中:
堀本さんはデザイナーの役割、未来をどのように見据えられていますでしょうか。

象印 堀本さん:
TENTさんからもありましたが、「STAN.」が発売前に話題になり、僕らが思っている以上に商品の良さや意図を捉えていただいたことが、すごく嬉しかったです。そうなったのは「STAN.」のプロダクト以外の部分も一貫したテーマでデザインできたからだと思います。

ですので、デザイナーの役割は、色や形のデザインだけではなくて、コミュニケーションの領域など、どんどん広がっていて、これから我々もデザインのやり方を含め、変わっていく必要があると感じています。

田中:
TENTのお二人は事業を推進していくうえで、こうありたいという姿はありますか。

TENT 治田さん:
TENTは他社様とのコラボレーション以外に、自社商品も抱えていて、自分たちでデザイン、工場への発注、発送も行なっています。今回の「STAN.」シリーズでは、歴史ある大きなメーカーさんと組んでも、自社商品を作るようなスタンスで製品を出せたのが新しい経験になりました。

今後もコラボレートする会社の規模に関わらず、自分たちのスタンスを変えずに、いろんなプロダクトを出せたら面白いなと思っています。

TENT 青木さん:
やっぱりお米を炊いて、食べるとめちゃくちゃおいしいんですよ(笑)。そこに立ち返ることができたのが、「STAN.」の開発に関わって感じた発見でした。「体験をデザインする」なんていう言葉もよく耳にする今日この頃ですけど、物体としての製品に触れることができて、それで作ったものを食べる。人間の五感に訴えかけることができるプロダクトデザイナーの面白さを再確認できましたね。

こういった調理家電は、ただ使って消費するのではなく、使う人がクリエイティブになり、料理を作って、楽しむ価値を提供します。使う人がもっとクリエイティブになって、使うことで自分が主役になれる。そういったプロダクトにもっと関わっていきたいですね。

田中:
堀本さん、青木さん、治田さん、本日は貴重なお話をありがとうございました!

おわりに

2社のコラボレーションによる「STAN.」の開発。そして、プロダクトからコミュニケーションまであらゆるデザインを行なったことで、ターゲット層に「STAN.」のコンセプトと魅力が届いたことをお話いただきました。

TENTさんのHPには、ご登壇いただいたみなさまが登場する「STAN.」の開発秘話が掲載されています。講演では語られなかった秘話もありますので、ぜひご覧ください。
https://tent1000.com/stan01.html

「STAN.」では、プロダクトのみならず、コミュニケーションの部分までデザインしたように、今回のイベントを通じ、肩書きに縛られず、製品やサービスに関わるあらゆることをデザインすることがデザイナーが事業に貢献するヒントだと感じました。

今後も定期的にBxD meetupの開催を予定しております。BxD meetupのFacebookページでは、今後のイベントの情報をご覧いただけます。
https://www.facebook.com/BusinessxDesignMeetup/